銅なのに、なぜ赤いのか ― 緋銅の色の出し方


緋銅の製作工程動画を投稿したところ、
「綺麗」 「銅がこんな色になるとは知らなかった」といった声をいただきました。
銅と聞いて思い浮かぶのは、十円玉のあの色だと思います。
この指輪の深い赤とは、すぐには結びつかないかもしれません。
塗ったわけでも、染めたわけでもありません。
銅そのものが、この色を出しています。
■ 緋銅(ひどう)とは
緋銅は、銅を融点近く(約1000°)まで熱し、薬品を溶かした使用液で急冷し、表面に赤い酸化被膜を纏わせて赤く発色させる、江戸時代に生まれたと伝えられている、古くからの金工の技法です。
「緋」は緋色、少し沈んだ深い赤を指します。
塗装やメッキではなく、緋銅の赤は、銅の表面そのものが変化して生まれた色です。
非常に繊細でデリケートなため、着用し擦れたりぶつかったりすると表面の赤が徐々に削れていき、アンティークのような経年変化をしていきます。
熱の入り方・温度・水溶液に入れるまでの時間・水溶液の濃度など様々な条件で、仕上がりの色やむらが変わります。
だから同じ緋銅でも、一つずつ表情が違い、まるで自然界の生き物のようです。
■ 緋銅リングができるまで
1. 成形
銅の地金から、リングの形をつくります。
太さ、幅、槌目や丸みの具合もここで決まります。
2. 表面処理・研磨
発色させる前に、表面を整えます。
この段階の状態が、そのまま仕上がりの色に出ます。
磨き残しや油分が残っていると、そこだけ色が変わってしまうので、
地味ですが結果を大きく左右する工程です。
3. 加熱・発色
炎を当てていきます。ここが緋銅の難しいところです。
4. 色が変わっていく
熱が入るにつれて、銅の表面の色が移り変わっていきます。
表面の色を見ながら感覚で温度見極めます。この見極めがすべてです。
5. 一瞬で水溶液に漬ける
熱した銅が空気に触れている時間が長くなるほど黒くなる可能性が高まります。
そこで火を離した瞬間に一気に急冷する必要があります。
沸騰し、泡が止まった後、一瞬の静寂の後、一気に紅に染まります。
■ 緋銅の難しさ
同じように製作しても、同じ色・質感にはなりません。
同じ色にならないどころか、温度を間違えると黒ずんでしまったり、
表面が溶けてざらざらになってしまい不良品となってしまいます。
最大の理由は、加熱の条件を毎回そろえきれないことです。
炎の当たる角度、当てている時間、母材の太さや大きさ、どこから熱が回るか。
同じ手つきでやっているつもりでも、一本ごとに違います。
そしてもうひとつ、緋銅には構造上の問題があります。
熱を加えると、銅は焼きなまされて柔らかくなります。
簡単に指で曲げられるほどです。
発色させたあとの銅は、指輪として日常的に使うには柔らかすぎます。
そこで、あらためて硬さを戻す工程(加工硬化)が必要になります。
発色した表面を痛めずに、硬さだけを戻す。
緋銅の指輪をつくるうえで、いちばん気を使うところです。
■ 完成した緋銅リング

幅広の指輪は面積があるので、濃淡やむらがそのまま表情になります。
実物は、写真で見るより深みのある赤です。
■ 鐵彩が、鉄以外の素材も扱う理由
鐵彩は鉄をメインマテリアルとしたブランドです。
銅、真鍮、革、木も扱いますが、中心にあるのはいつも鉄です。
他の素材を使うのは、鉄を引き立てるためです。
鉄だけで組むと、鉄の黒さも質感も、比べる相手がないまま沈んで見えます。
そこに銅の赤や真鍮の金色、木の温かみが入ると、鉄の表情がはっきり立ち上がります。
素材には、もともと持っている表情があります。
それを消さずに、人の手で引き出す。
無機質な素材に、人の手で生まれる表情を。
鐵彩がつくりたいのは、そういうものです。
■ 一点ずつ違う、緋銅の表情
赤といっても幅があります。
明るい赤に寄るものもあれば、赤紫に沈むものもあります。
光の当たり方でも見え方が変わります。
室内の照明の下と外の日差しの下では、同じ指輪が違う色に見えます。
同じ工程を踏んでも、完全に同じものにはなりません。
狙って揃えられないという意味では、これは欠点でもあります。
同時に、手元に届いた一本が世界に一本しかない理由でもあります。
■ 実物を見ていただける場所
都内を中心に、イベントに出展予定です。
緋銅は、写真と実物で印象が変わる素材です。
画面では出しきれない深さや色味、むらがあるので、
機会があればぜひ手に取ってみてください。
出展の予定は Instagram にてお知らせしています。
Instagram @tessai_ironart
オンラインストア https://www.tessai-official.com/semi-order
■緋銅の指輪についての注意点
緋銅の指輪につきましては、現在基本的にオープンタイプの指輪を製作可能です。
材料の仕入れの関係で輪っかのタイプのものは製作可能サイズが限られますのでご了承ください。
製作工程上、個体差の大きな製品です。
むらや表面の軽い剥がれ、凹凸などコントロールがとても難しい製品です。
イベント以外でお求めになりたい方は、お手元に届いた際に、その個体差などを容認できる方のみお求めくださいませ。
なるべくイベントで実物をご確認していただき、ご購入されることをおすすめいたします。
こちらの商品はイベントにて販売予定の製品であったためオンラインでのご準備ができておりません。
しばらくお待ちくださいませ。